「モノ」を超えた「体験」を届けたい。 高桑製作所 一枚絞(ひとひらしぼり)

Interview

一枚絞 “ひとひらしぼり” ができるまで


東京都、大田区。「ものづくりの街」として知られ、3000を超える町工場が存在する。
株式会社高桑産業もそのひとつ。50年以上ヘラ絞り加工を続けてきた。

一枚絞を制作できる数少ない熟練職人のひとり、黒沢さん。
「どのくらいここで働いていらっしゃるんですか?」と尋ねると「半世紀!」と笑顔で答えてくれた。


B to B、企業間取引で部品加工を中心に事業を行ってきた高桑製作所が、自社のオリジナル商品である一枚絞(ひとひらしぼり)をうみだした背景を社長の高桑さんに伺った。

最初は贈答品として開発を始めたんです。ご挨拶や何かのときに “高桑製作所” としてお渡しする品ですね。
長い間、ステンレス製のボウルを贈答品としてお渡ししていたんですが、100円ショップでもボウルが買えるような時代に、それなりにコストはかかるのにインパクトがないし、職人の技術や手仕事でうみだされるモノの価値も伝わらない。
それで、ヘラ絞りという技術を活かしてなにか特別なモノが作れないか、というところから始まったんです。
今までになかった新しいモノを、親しみやすく生活の中に溶け込むカタチにデザインする。そんなコンセプトから、一枚絞(ひとひらしぼり)のアイデアはうまれました。
手にした人が「職人 その仕事・技」それを育んだ「東京・日本」を思い、さらに「日本の歴史・文化・精神」へと想いをひろげられる器。
使うことに『よろこび』がある器。
アイデアから実際にカタチになって、こうして販売するに至るまでは時間もかかったし、色々と苦労もありました。それでも、たくさんの方々との出会いや想いに支えられて、一枚絞を完成させることができました。

社長の高桑さんご本人は発案者で、制作を請け負うのは工場で働く職人さんたち。
不可能とされていた新たな挑戦に対して、職人さんたちの反応はどうだったのだろうか。

アイデアの時点から今ほどの熱意があったかどうかというと、そうではなかったかもしれませんね。やはり作るのは現場の職人たちなので、彼らのモチベーションをあげて新しいものを生み出そう、という熱意を引き出すことが自分の役割です。
実際にチャレンジを始めてカタチになっていくにつれて、現場の熱意も上がっていった。
最終的に一貫して高品質なモノを作り出せるようになって、特許が取れて、「GOOD DESIGN賞」をはじめ、大田区の 「おおた秀逸技能賞」など、デザインと技術の両面において高い評価を得て、いくつか賞を受賞することができました。
受賞をきっかけに展示会などに出品する機会を得たとき、職人さんたちにもブースに立ってもらったんです。そこで “一枚絞” に対する人々の反応を直に体験し、直接ご意見やご感想をいただいたことで、あらためて自分たちが創り出すものの価値を実感し、自信と誇りを持つきっかけにもなったと思います。

一枚絞の第一工程。ぐい飲みの内側部分が絞られていく。
ヘラが当たる部分から、まるで水面に拡がっていく波紋のようにわずかな波が外へ向かって動いていく。
固いチタンの板がまるで轆轤(ろくろ)の上の粘土のように、なめらかにカタチを変えていくのは圧巻。

“一枚絞” は、熟練職人の技術があってはじめてカタチになるものです。うちでもつくることができる職人は3名しかいません。
今回新たな技法にチャレンジし、完成させた “一枚絞” は、熟練の職人たちが誇りを持って若い職人たちに技術を伝え、若い職人たちが「いつか自分も」と意欲を持って腕を磨く、という好循環を後押ししてくれる存在にもなりました。

工場を見せていただいたとき、職人さんたちの雰囲気がすごくあたたかくて、何より”作ること”が楽しそうだった。仕事への誇りと愛情を感じた。
この場所で、世界でたったひとつの新たな技術がうまれ、彼らの手仕事でひとつひとつの一枚絞が形作られていくのだと思うと、心が躍る。

工場では、もちろん 一枚絞(ひとひらしぼり) のほかにも様々なモノが作られている。海中ケーブルのソケット、綿あめの機械に使われる大きなドーナツ型の部品、ランプの傘…
普段自分が何気なく暮らしている毎日が、多くの人の手によって成り立っているということを改めて感じた。こうして誰かがうみ出したものに囲まれて、私の毎日はできているのだ。

私たちの何気ない日々の暮らしを支えてくれる職人さんたちが、その人生の大半の時間をものづくりにささげ、磨き抜いてきた技術と、それを支える人々の想い。技術を後世に伝えてきたいという使命感と熱意、伝統的な技術を使って新しいものを生み出そうとするチャレンジ精神。
一枚絞(ひとひらしぼり)は、そんな人々の想いと技術の結晶なのだ。

社長自らデザインしたというロゴには、Made in Tokyoを誇る、高桑産業のものづくりへの想いが込められている。
”伝統的だが、新規性がある日本のモノを”


想いを持って、ひとつひとつ手作業でうみだされるモノには、エネルギーがある。そこに込められた想いや、その裏に隠れているストーリーすべてが、一枚絞(ひとひらしぼり)の価値。

半世紀を超えて、人生をかけて、技を磨いてきた職人がひとつひとつ手作業でうみだす酒器を手にするとき。日本の文化と受け継がれてきた技に想いを馳せ、今を受け止め、未来に目を向け新たなものづくりに挑み続ける精神に触れる。そんな豊かな「体験」が、そこにある。

>>暮らしの中の “一枚絞”  酒器としてだけではない、幅広い楽しみかた

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